和歌と俳句

加藤楸邨

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土砂ぶりの菊に還りて母の前

身に沁みて夕映わたる門の石

深秋の崖の島影爆音す

菊の上飛行機雲の尾はながれ

大いなる笑顔ふたつは秋雲に

ひえびえと菊揺れ一機にはあらず

山茶花やひえびえとして胸の奥

門入りてまづ鶏頭のほむらかな

茶の花に思ひいたりて息ふかし

糸瓜忌のすぎたる糸瓜かかりけり

竜胆やここに還りて雲の色

極まりし鶏頭の緋に還りつく

壕冷えて砂がしづかにこぼれつぐ

鶏頭をまはれば色のかはりけり

暮れはやき破蓮よりぞひとり立つ

爆弾音冷雨の笹のはぢけたつ

深秋の顔つどひきてよくわらふ

しぐれくる崖の赤土見れば見ゆ

蔦の葉の枯ゆくひかり火の夜空

しぐれつつ命ありきとつどひたる

ペン執りし身を冬天に爆ぜしめき

少女等もの旋盤に切粉傷

帰り来し吾子に灯を向け時雨れをり

悴みし手もて弾体うち鳴らす

胸も頬も油まみれの冬日落つ