和歌と俳句

加藤楸邨

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時雨れつつ礁かき消す怒濤かな

ふかく川曲りゆき日本なり

大露の虫なく朝やかへりつく

時雨るるや火を焚きたてて朝厨

破蓮も日本の秋の深さかな

晩稲田の露のめざめの透明に

椋の実に旅も果なる一日かな

鳴いて大いなる息吐きにけり

栗の毬踏みしも旅の終りかな

穂薄に触るる思ひもただならず

暮早き懸巣が越えぬ高野川

月さがす八瀬街道の十三夜

竹の穂の動くものなししぐれをり

コスモスの向ふむきよりしぐれきぬ

子へいそぐ木曽路の稲架照りかへし

秋天へまひる焚く火も恵那の谷

木曾谷の刈田をわたるひざしかな

父と子と新雪の嶺襖なす

兄が指し弟が見て雪の嶺々

まるめろにはや新雪の槍穂高

信濃路の桑にふり子とわかる

燕はやかへりて山河音もなし

紫蘇枯れて石に佇むほかはなし

崖さむき常の茜に還りつく

暮れはやき灯に躍りいづ萩一枝