和歌と俳句

鵙 百舌 もず

お経あげてお米もらうて百舌鳴いて 山頭火

ちらほら家が見え出して鵙が鋭く 山頭火

藪に立つ欅三本鵙の秋 たかし

貧乏のどんぞこで百舌鳥がなく 山頭火

夕鵙のうしろ髪引き鳴きわたる 立子

漸くに心静かや鵙もなき 立子

水郷の夕焼ながし鵙猛る 野風呂

独り居のうれしき日なり鵙をきく 

鵙のこゑ片づけものゝ小半日 

鵙日和椢林にくぐり入る 立子

もたれ坐す楢の細木や鵙日和 立子

夕鵙のたけりて門を横ぎれり 青邨

門掃きて今日こそ晴れめ鵙のこゑ 

鵙の野に鉄塔エレキ通はする 茅舎

鉄塔に電線に鵙多摩遙か 茅舎

鵙立ちて西日に向きて見失ふ 立子

鵙の目の対へる畑の一ト火燃ゆ 草田男

鵙なくやきらりきらりと紙屋川 茅舎

鵙なけり髭を剃らめと思ふのみ 誓子

かなしめば鵙金色の日を負ひ来 楸邨

ひとの目に鵙群青の空を翔く 楸邨

鵙が来ぬ庭掃くさへもたのしくて 

夕鵙のうしろに叫び月前に 立子

鵙昏るる頬けたのあざは塗りつぶし 鷹女

鵙たけるのみの静けさ爪をきる 

露打つて翔りし影は天の鵙 茅舎

鵙猛り柿祭壇のごとくなり 茅舎

鵙ゆきて稲田の幣にとまりけり 波郷

兄の子を抱けば鵙鳴けり言葉あらず 波郷

鵙の空書斎はひくくありと思ふ 青邨

鵙ないて要塞地帯の朝めざむ 悌二郎

鵙ながく啼けり静臥のけふ終る 誓子

うすきうすき有明月に鵙高音 茅舎

東天の紅消え行きて鵙曇り 茅舎

鵙猛り裂けし生木の匂ひ甘 茅舎

きのふ降りけふ澄み晴れし松の百舌鳥 秋櫻子

鵙啼けりひとと在る時かくて過ぐ 多佳子

稲舟にごとんと音す鵙高音 素十

山彦にさからひやまず霧の鵙 麦南

訃を聞いて暫くありて鵙高音 たかし

露人墓地稲佐や百舌鳥の樟がくり 友二

鵙鳴いて雨過山房にあまねき日 友二

東京の鵙声高き帰還兵 波郷

鵙鳴いて柿の木を見ず駒場町 波郷

鵙の昼深大寺蕎麦なかりけり 波郷

鵙の天まつくらなりし嗚咽かな 楸邨

鵙なくや雲の切目の蒼き天 占魚

水清き流れに寄れば鵙のこゑ 誓子

紅き日をおがみてやがて鵙の声 波津女

またあとに鵙は火を吐くばかりなり 楸邨

鵙の舌焔のごとく征かんとす 楸邨

われ起きしとき鵙のこゑすでにあり 波津女

鵙鳴いてシャベル火花を発しけり 誓子

屋根なほし鵙も昨日にことならず 誓子

鵙なきて沖の眺めもなき河口 誓子

鵙のこゑ浅き河口を開きけり 誓子

鵙叫ぶ入江とどまるところより 誓子

鵙鳴いて甚だ古き切通し 誓子

川波や急調となる鵙のこゑ 誓子

鵙の斑をとぶ羽に見て野を帰る 誓子

電線に鵙あり既に見しごとく 誓子

鵙のこゑ吾身の上にふりそそぐ 誓子

樹の空を真直ぐにわたる鵙のこゑ 誓子

鵙鳴いて大いなる息吐きにけり 楸邨

鵙高音いそぎの文を書けるとき 波津女

鵙の尾や没日を曳きてひたのぼる 知世子