和歌と俳句

山口青邨

みちのくの木槿の花の白かりし

法師蝉鳴く短さよふと暮るる

秋の髪かざしの胡蝶一つ小さく

月消ぬる邯鄲それのごとく鳴く

乳をやり女はたのし葛の雨

甲斐盆地案山子が多く豊の

蓼科のまつむし草のあはれさよ

書屋いま収穫の南瓜置きならべ

地球儀と南瓜と柿本人麻呂と

月を待つ情は人を待つ情

十六夜の松はなやぎて低きかな

月の友みせばやの花吊る軒に

母を呼ぶ大きな声や露の宿

の空書斎はひくくありと思ふ

門の菊妻が愛してをれば憑く

のチヤペル紺青の葱珠天に澄み

ささやかなステンドグラスの寺

の鐘夕の祷告げて鳴る

ひざまづく人そちこちにの寺

ひざまづき燭かくれたりの堂

うつくしき人のうつしゑの墓

供華えぞ菊夕の月になほ紺に