和歌と俳句

山口青邨

手をかざす火鉢の前の一葉かな

白萩の夕日にそまり高らかに

篝火に近く鳴きゐるくつわむし

梅鉢の提灯ともす月の園

上水のかくれてゆきぬ花芒

一枚の紅葉こぼるる布団敷く

右衛門七は十八歳よたむけ

九十九谷一つの谷の刈田あり

草市のへへののもへじのランプかな

潮寄する鱸を放つ大盥

海の子等こよひ門火を囲みゐる

七夕を東海道の松に結ひ

子規忌までかくては月も覚束な

雨到り障子を濡らす秋海棠

月上るまでくれなゐや鶏頭花

日がのぼり露のかまきり躍り出づ

豊の穂をいだきて人を怖づ

菊咲けり陶淵明の咲けり

夕月や東籬の菊に靄流れ

菊畑に手鞠はひりぬにほふ

矢絣を着てエキストラ秋晴

軒行燈火を入れに来る無月かな

相思樹の梢ゆれをり秋といふ

秋の田を刈るや白鷺人に近く

旅をして来て爪をきるの前