和歌と俳句

篠田悌二郎

憩ひつつ秋日のもとに言すくな

わたり鳥あふぐつかれし貌しろく

秋天を濁すけむりは陸へ吹け

ある夜とみにこほろぎしげく兵征けり

いわし雲子がゆびさせりはるかなる

きちきちがたち二つたち風ゆけり

秋風の草にかけ入る子をよべり

あかしつめたき吾子の手をひける

橋に架け木にかけ晩稲刈りいそぐ

出征旗稲架のうしろを声とゆけり

釣の徒のゐならぶ稲架に日がかくる

のくらさも蓋し台風期

わがゆあみ秋日があふれ湯が溢る

残暑の扉出でゆく足音聞きまじとする

ないて要塞地帯の朝めざむ

いつ果てし夏ぞもひとり膝抱けば

酔ひて子がはじめてもどる夜の野分

夏果てし沖の暗さに集魚燈

流燈を瀬波さそひて覆へす

流燈に入りしとき波襲ふ

流燈の気負ふ一燈瀬にのまる

流燈の河口に出しがいのちの灯

虚しさの花火に誘ひ誘はるる