和歌と俳句

加藤知世子

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征くが弓彦闇の向ふが花八つ手

落葉焚く郷愁といふよりほそく

人の偽非明日の命は紅茸か

寒木瓜や襤褸にまどひなきひと日

雪匂ふ越路の人の骨相に

バスはやし街は粉雪の絵巻かな

吾子受験槻仰ぎゐて又暮るる

涅槃西風この日我が影肩ほそく

白足袋に春日まぶしや階のぞく

落花生むくや春日の白きこと

夕日明るく朝日は暗し紅椿

南風の中萌えてまたたき母子草

花辛夷己がよそほひ重くるし

新緑や髪の捲きかたかへて見き

晴曇の幾日揺がず朴の花

郭公やどこまで深き一つ星

青葉木菟星うるみゆく思ひかな

息の中白百合の香の深みゆく

蜘蛛が巣を張る間切れる間の歴史かな

薄物の肩透きゐるが帰還兵

を救いその灰色はふり向かず

睡蓮の紅の燃えたつ憶えかな

睡蓮の紅よ光りも花なりに

麻衣嫌はるる客となるなかれ

横顔の夫と柱が夕焼け

蜩や夕焼いつも槻をさす

百日紅行きつくまでの紅さかな

夏の闇吾子の忌となり川の音

吾子の忌の袂が重き青嵐

風わたる合歓よあやふしその色も

青萩や姑の手わたす京の紅

一粒の露の光りや夫転ず

夢を経し竜胆は娘へ押花に

萩未明十六夜のみの動きかな

白萩の花の奥なる朝夕

画展より萩へかへるや獺祭忌

祷り終りぬすつくすつくと寒の杉

万葉の歌の響きや寒詣

横向けば星もうごきぬ年暮るる

凧の糸曳く瞳仰ぐ瞳あすいかに

屠蘇の座のその子この子に日がさし来

芝枯れて紫の襟ふと映えぬ

背文字にして限りなき雪明り

蘆花の家の荒き木目は寒の照り

笹鳴や軍歌うるほふ朝まだき

葉牡丹を顔へ向けかへ癒え初むる

足袋に継あてて帰省も爆音下

雪に笑みて迎へし人へ伏目がち

白梅や立居ふるまひ娘に教ふ

寒紅梅ほどよき色に迫らるる

を掘る音かなし薄明に

散りてなほ松の花なる夕あかり

袖つめて燕仰ぐ朝まだき

青萩の嵐見てゐてわれにかへる

夫ゆきて十日ひと夜の青嵐

留守の座に向きて明るき花南瓜

白萩の白によせたる文綴り

の中一針ごとの願ひかな

はらからに続かむ一歩喜雨に出で

稲妻にめんこの相の泣笑ひ

兜虫繋がれしまま明けて居り

汗ながら袱紗捌きの音に入る

澄みわたる朝蜩や茶に向ふ

鳴きかはる茶立虫へと座をうつす

皿触るる音さへ澄めり月明に

の尾や没日を曳きてひたのぼる

茶の花に還りし後姿なり

農夫の罵詈に黙しとほすや冬の虹