白秋
夕かげの おもてに移る 合歓の花 ほのかに君も ねむりたまひぬ
白秋
葉のとぢてほのくれなゐの合歓の花にほへる見れば幼な夕合歓
白秋
水のべにいまだをさなき合歓の花ほのかに紅く君も眠ななむ
白秋
昼がすみ水曲の明りほのぼのと合歓の花は咲き匂ふらし
真すぐに合歓の花落つ水の上 立子
迢空
沙原に、雨近からむ。ねむの花 赤も 綠も 色深まりぬ
迢空
沙山は 既にしづまるねむの梢━花こまやかに ゆれてゐるなり
迢空
ねむの葉や すでに睡れる丘の沙 木梢は赤し。ねむの夕花
みづからの葉風にねむり合歓くるる 彷徨子
このみちや合歓の咲きつづき 山頭火
合歓の花おもひでが夢のやうに 山頭火
貴船路やだんだん濃ゆき合歓の花 立子
合歓の花ほのかなれども水くらし 悌二郎
きりきりと眠れる合歓に昴かげ 茅舎
朝刊はつとに来てゐぬ合歓のかげ 楸邨
茂吉
親しきはうすくれなゐの合歓の花むらがり匂ふ旅のやどりに
合歓咲けば母のおもほゆゆえしらず 悌二郎
合歓の雨記憶の母のああうすれ 悌二郎
合歓の花母のよはひをわが超へぬ 悌二郎
合歓の咲く水辺に跼み物語り みどり女
白秋
風無くて匂やかなる夕じめり合歓の花ぞほの紅く顕つ
白秋
合歓の花匂へる見ればおもほえてまだ女童のをさな髪ぎが
合歓咲きて駅長室によき蔭を 青邨
白秋
茅蜩の この日啼きそめ 山方や まだ夕淡き 合歓のふさ花
白秋
雨けむる 合歓の条花 夕淡き この見おろしも 今は暮れなむ
合歓咲けり蜂飄として巣を忘る 蛇笏
合歓咲いて嶽どんよりと川奏づ 蛇笏
トゲ残るきのふの不快合歓に覚め 茅舎
雀らも西日まみれやねぶの花 波郷
くらがりの合歓を知りゐる端居かな 波郷
合歓の花沖には紺の潮流る 欣一
合歓の花羽毛のごとく頬にふれ 欣一
花合歓やその名も果は忘るべし 楸邨
風わたる合歓よあやふしその色も 知世子
い寝さめて武蔵野の穹合歓の穹 多佳子
合歓いまはねむり合はすや熱の中 波郷
合歓の月こぼれて胸の冷えにけり 波郷
花合歓のいつわが胸に君眠る 朱鳥