北原白秋

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我がほかは 日の白光に こだまして ラヂオ体操の 響くあるのみ

暑の霞 はてなきごとし 熬りつつや にいにい蝉の 声沁むるかに

ま白髯 長かる父の 目は盲ひて 端然と坐すに 月押し照りき

父の老 内障眼はかなく なりまして ひたすらと執らす 母の手なりき

立秋を 白き木槿の 花咲きて 見る眼すがしく 開きましし父や

閉ぢしみ眼 ひらくただちを 咲き笑まふ 少女が面輪 こよなかりしと

老のみ眼 とかく曇らへ 年なれば 早や諦めて おはすかよ父よ

そのごとも 盲ふる子が眼を 乞ひ祷むと 手触りなげかす 父は子が眼を

盲ふる眼の 梅雨の霖雨を 日ぐらしと 子は父を思ふ 父は子を蓋し

父と子や 霖雨けなるき 起臥を 盲ひつつ坐すに 盲ひにつつあり

土もぐる メンコン蛙 眼ばかりを 上にのぞかせて 吼ゆとふかなや

ラヂオには メンコン蛙 くくみ啼き 鳴る瀬のうつつ 螢が飛ぶも

茅蜩の この日啼きそめ 山方や まだ夕淡き 合歓のふさ花

雨けむる 合歓の条花 夕淡き この見おろしも 今は暮れなむ

小綬鶏の 雛うち連れて 過ぎりしは まだ朝かげの 山寄りにして

小綬鶏の 雛を守りつつ 降り行ける 谷地をぞ思ふ その夏霞

我が庭は 莠にまじる 桔梗の 紫しらけ 朝から暑し

朝顔は 白く柔らに ひらきゐて 葉映あをし 蔓も濡れつつ

何なるや 白くすずしく ひらき来て 朝顔の花と いま匂ふもの

眼かも 蔓にはあらし 一方と 伸び向ふなり 朝顔絡む

和歌と俳句