さえざえと 今朝咲き盛る 白菊の 葉かげの土は 紫に見ゆ
ひとりゐは なにかくつろぐ 午たけて 酒こほしかも この菊盛り
みどり児が 力こめたる 掌に 一つ手にぎる 小さきかやの実
円かなる 月の後夜とし なりにけり 孟宗の秀の 大揺れの風
山川の み冬の瀞に 影ひたす 椿は厚し 花ごもりつつ
須雲川 寒き日蔭の 岩床に ぬめる氷の 面のかぐろさ
書読みて 心安けき たまたまは 我やさしかり 餅など焼く
花樫に 月の大きく かがやけば 眼ひらく木菟か ほうほうと啼けり
畔は畔 田は田の型に つもりたり おもしろの雪や おもしろの雪や
しみしみと 夕冷えまさる しら雪に 岩うつり啼くは 河原鶸かも
雪に来る 河原鶸かと 耳とめて 碁石うちゐつ いまだ灯さず
おとなしく 炬燵にはひり 日暮なり ふりつつやみし 雪のあとの冷
春あさし 酒を柴火に あたためて 白木綿雲の 行き消ゆる見む
ねもごろに 酒はぬくめむ 杉山の 杉の落葉は 火を燃すによき
日のあたり 杉の落葉を 燃しつけて 酒わかす間の 晴れの潮騒
この春も 老いし父母 かなしくて 為すなき我や 遠く遊ばず
梅咲きて 白くしづけき 日おもては 見つつよろしも 草餅食み
下畦の 赤き櫨子を 根に掘ると かがみゐてさびし 高圧線のうなり
焼芝に 櫨子燃えたつ 高畦の 下道かへる 新入生と母
朝ひらく 黄のたんぽぽの 露けさよ 口寄する馬の 叱られてゆきぬ
夕かけて 双子の山に ゐる雲の 白きを見れば 春たけにける
濃き淡き 遠山霞 あかねさし 夕べは親し 日の洩れにけり
まだ白き 野火のけむりの 春じめり ゆふべは靄に こもらひにけり
春山は 杉も青みて いつしかと 鶯の声が 鶸に代りぬ
春の靄 こもらふみれば 木苺の 一重のしろき 花明るなり