北原白秋

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ましららの 白良の浜は まことしろきかも 敷きなべて 眞砂も玉も まことしろきかも

ましららの まこと白浜 照る玉の かがよふ玉の 踏み処知らなく

まことにも しろき浜びや 足つけて 踏みさくみ熱き 眞砂照る玉

音絶えて かがよふ砂浜 ましろくぞ 白良のま玉 火氣澄みつつ

松が枝の 疎き鱗に 照るさへや 眞砂は暑し 吹きあげの玉

女童の 脛の柔毛に つく砂の しろき眞砂は 光りつつあり

浜木綿は 花のかむりの 立ち枯れて そこらただ暑し 日ざかりの砂

牟婁と言へば 葉叢高莖 百重なす 浜木綿の花は うべやこの花

紀の海 牟婁の渚に 群れ生ふる 浜木綿の花 過ぎにけるかも

糸しだり 花過ぎ方の 浜木綿は 影おだしけれ 火照る夕波

埼の湯は 湯室の庇 四端反り 夕凪にあるか 入江向ひに

牟婁の埼 荒き石湯に 女童居りて 大わだの西日 ただに明かり

浜木綿に 湯室の灯 映りゐて 眞砂踏み來る 足音絶えぬ

短夜の 白良の浜に 來寄る波 燈籠にまく わ苧がらなどをあはれ

朝ながめ 夕ありきして 牟婁の津や 白良の浜に 玉をめでつつ

玉ひろふ 子らと交らひ 牟婁の埼 白良の浜に 七夜寝にける

砂いくつ 畳にひろふ 起臥も 早やすずしかり 唐紙のべしむ

和歌と俳句