北原白秋

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掛け竝めて 玉名少女が 扱きのばす 翁索麪は 長きしら糸

手うち索麪 戸ごと掛け竝め 日ざかりや 関のおもては しづけかりにし

山間は 貧しき関の ありやうを 暑き日ざしにて 敢て見て過ぐ

時計の 秒針は進むと 子が死にて 父へ母へと つたふる絶えぬ

中庭の 柿の老木は 庇より 手のとどかむに 暑き日照や

乏しきを 老いて豊けき 大人見れば 鶏割け風呂焚け 造酒よと麪よと

割く鶏の 胆青きまで 下照らす 柿の葉ごみに 風とどまりぬ

低屋根に 鉄砲風呂の 煙たち あくまでも暑き 西日たもてり

お墓山 煙草の花に ふる雨の ほの紅うして 身はうつつなり

この道よ 椎の落葉に ふる雨の いたくもふらね よくしめりつつ

百日紅 老木しらけて 厠戸の 前なる石も あとなくなりぬ

白き鶏 あさりさわめく 影のみぞ ただに照り反る 動きにてあり

背戸柿や これの爺さが 木洩れ日に 身うちゆるがし 我ら遊びし

玉名のや 少女索緒て 煮る繭の ころろ小をどる 玉白かりき

粗壁に 影して低き 草庇 いまも山家は 貧しかるなり

七面鳥 乳嘴かき垂り 尾羽張りて とめぐる庭の 日ざかり今は

病み臥す 人が眼うつす 外の庭に 零余子そよぎて げに外目なり

高き屋に 常眺めてし 前の山 いまも恋しき 一つ松見ゆ

上内は 谷をへだつる 前の山 肥後と筑後の 境松あはれ

母の里 外目の夏は 月夜には 笛おもしろく 子ら吹き立てぬ

横笛は 子らが手づくり 南瓜の 花かかるあたり 月夜吹きつつ

幼なくて 裸馬をせめたる 山坂に 磨墨川と いふが響きし

赤ん谷 山桃実る 梢越えて 鷲巣山は 雲近かりき

夏山は 霞わけつつ 持て来たる 山桃ゆゑに そのよき姥を

和歌と俳句