葉のとぢて ほのくれなゐの 合歓の花 にほへる見れば 幼な夕合歓
水のべに いまだをさなき 合歓の花 ほのかに紅く 君も眠ななむ
水の街 棹さし来れば 夕雲や 鳰の浮巣の ささ啼きのこゑ
旗雲と 匂だちたる 月の出は たぐふすべなし あかき旗雲
過ぎし日の 幼なあそびの 土の鳩 吹きて鳴らさな 月のあかりに
爆竹の 花火はぜちる 柳かげ 水のながれは 行きてかへらず
汗あゆる 夏のゆふべは すがすがし 葦の葉吹きて あるべかりけり
都べへ 立たむ日近し 菱売の 向脛黒く 秋づきにけり
馬描かば 内にためたる 蹴上げよと 老いたる泣きぬ 幼児に言ひて
描く馬よ 青雲のぞむ 勢の 上なかりしが 墨はかすれき
十二万石 殿の若子は さもあらばあれ ここに六騎の 町の子我は
外厠 戸ごとあけたる 町すぢはに 冬は西日の 寒けかりにし
春の夜と 滴りあまる 豊造酒は 朱塗の樽に 添ひて流れつ
女童は ほのかなりしか 小硯の 赤間が石に 墨片避けて
よく坐しき あてに墨磨り 唐やうの 画をたしなみと 書を楽しみと
田のそなた 堀に柳の しだれたる 離家の窗に 老いていましき
しゆうしゆうと 花火ふき出る 竹の筒 幼らすでに 勢ひそめにし
青銭の 穴あき銭を かなしよと 父のみ前に 貫きて数へつ
諸国船 歳の塩鰤 競りあぐと 寒もものかは 裸でおらぶ
師走業 我が家の市は 大歳と 千石船の 群れて泊てにし
南風にして 千石船の 箱ぐるま 金毘羅までも 我は曳かせつ