和歌と俳句

橋本多佳子

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港見るうしろに青き蚊帳吊られ

青き蚊帳熟睡の吾子とならび寝む

青き蚊帳ひとの家にも吊られゐる

日覆ふかく疲れ港の照るを瞳に

面を過ぐる機関車の灼け旅はじまる

潮騒を身ちかく火蛾と海渡る

ひとの家に実桜熟るる一夜寝し

夏潮の滾ち真白くはや舳のゆれ

真日灼くる渦潮を直に船航けり

南風碧く渦潮の面を駆け過ぐる

渦潮を過ぎ来て南風に舳をかはす

短艇甲板燬くる静けさ日も航けり

雷鳴下匂ひはげしく百合俯向く

郭公を暁にきゝそれより寝き

言とぎれ面に夏雲たゞ照るのみ

林中の夕焼よめる書には来ず

夜草刈蠍の星はしづみたり

天昏れて草原いつまでも蒼き

青野来し砲車の車輪湖荒るる

車輪の中遠き青野の山が移る

夏草野砲車の車輪川渡る

砲車ゆく青愛鷹山を野にひくく

夕焼くるかの雲のもとひと待たむ

夕焼雲鉄路は昏るる峡に入る

南風吹く湖のさびしさ身に一と日

子を負へる子のみしなのの梨すもも

五月野の雲の速きをひと寂しむ

掌に熱き粥の清しさ夏やせて

蕗畑のひかり身にしつなつかしき

牡丹にあひはげしき木曾の雨に逢ふ

ひとをかへすおだまきの雨止むまじく

薄荷の葉噛んで子供等雨が降る

おだまきやどの子も誰も子を負ひて

入学の一と月経たる紫雲英道

薄荷の葉噛みて唇巒気ひゆ

牡丹照るしづけさに仔馬立ねむる

牡丹照り鷄は卵を抱きをり

花あふち梢のさやぎしづまらぬ

どくだみの白妙梅雨の一日昏る

こがね虫吾子音読の燈をうちうつ

学ぶ子に暁四時の油蝉

はまなすの紅姨捨も霧に過ぎ

髪匂ふことも親しく蛍の夜

いづこにもいたどりの紅木曾に泊つ

足袋買ふや木曾の坂町夏祭

ほととぎす暁の闇紺青に

ほととぎす新墾に火を走らする

い寝さめて武蔵野の穹合歓の穹