和歌と俳句

橋本多佳子

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手にとりて死蝶は軽くなりにけり

旅了らむ燈下に黒き金魚浮き

枕せば蚊ごゑ横引くひとの家

言葉のあと花椎の香の満ちてくる

花椎やもとより独りもの言はず

花椎の香に偽りを言はしめし

いとけなく植田となりてなびきをり

梅雨の藻よ恋しきものの如く寄る

厚板の帯のより過去けぶる

海南風死に到るまで茶色の瞳

あぢさゐが藍となりゆく夜来る如

蟇いでて女あるじと見えけり

更衣水にうつりていそぎつつ

ひと聴きて吾きかざりしほととぎす

衣更雀の羽音あざやかに

罌粟ひらく髪の先まで寂しきとき

ほととぎす新しき息継にけり

あぢさゐやきのふの手紙はや古ぶ

麦秋や乳児に噛まれし乳の創

麦刈が立ちて遠山恋ひにけり

青梅の犇く記憶に夫立てり

百合折らむにはあまりに夜の迫りをり

何うつさむとするや碧眼万緑

黴の中一間青蚊帳ともりけり

濡れ髪を蚊帳くぐるとき低くする