和歌と俳句

麦の秋

麦秋や痩馬牽きて長手綱 蛇笏

もてなすに金平糖や麦の秋 茅舎

熾んなる麦の秋かな大石見 石鼎

なつかしや芝白金の麦の秋 喜舟

麦秋や雨の一日鯰釣り 喜舟

青雲と白雲と耀り麦の秋 草城

山の上たひらに麦の秋となる 林火

行人の背にある蠅や麦の秋 たかし

塀に古るへのへのもへや麦の秋 不器男

病院に通ひなれたり麦の秋 みどり女

美しき空を雲間や麦の秋 石鼎

干蚊帳に留守居の子等や麦の秋 石鼎

編笠の人ちらほらす麦の秋 石鼎

編笠の娘の紅脣や麦の秋 石鼎

灯して過ぎる列車や麦の秋 石鼎

草原へ投網なげ干し麦の秋 石鼎

麦秋や星あるごとき松の上 石鼎

大空のかまでに晴れて麦の秋 石鼎

ほの曇して大空や麦の秋 石鼎

麦は秋蝶に二つの翅かな 鷹女

村の童の大きな腹や麦の秋 鳳作

麦秋の丘は炎帝たたらふむ 鳳作

宵々の燈下楽しや麦の秋 石鼎

麦秋や真昼の窓に灸の煙 石鼎

麦秋の米櫃におく佛の燈 蛇笏

麦秋やよそよそしくも昼寝僧 月二郎

大屋根に出でたる月や麦の秋 月二郎

昼月と身を麦秋のかぜにさらし 鷹女

麦の秋お医者通ひを恥ぢ通る 花蓑

麦秋や抛りある鎌踏むまじく 蕪城

鎌借りて鉛筆けづる麦の秋 蕪城

麦秋や光なき海平らけく 占魚

山畑や雲ゐる上も麦の秋 秋櫻子

小降りして山風のたつ麦の秋 蛇笏

座右の書に麦の秋風かよひけり 蛇笏

麦秋やラジオの燈昼ながら 誓子

母の粥炊きにもどる娘麦の秋 蕪城

麦秋や葉書一枚野を流る 誓子

麦秋や軌道茜にいろづきて 誓子