和歌と俳句

三橋鷹女

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いちじゆくの実の七月を占はれ

いちじゆくの実青しいのち死にがたし

向日葵に見られ働けりひたすらに

鍬とればあはれ草木の蒼き夏

茄子苗を植うる一心これの手に

昼月と身を麦秋のかぜにさらし

麦嵐夜はうつし身を横たへぬ

麦嵐吹けり痩身耐へてゐる

夕焼けて水辺の松はありしかな

こころ死を欲れり夕焼松の根に

夕やけの野空をゆくはうのとりか

ゆふやけの野のさみしさよ眼をつむり

向日葵を咲かせ心に兵がある

亡びゆく国あり大き向日葵咲き

向日葵黄に一碗の水を尊み住めり

夏痩せて瞳に塹壕をゑがき得ざる

子と父と日の夏原に肩を並べ

子の鼻梁焦げて夏野の日を跳べり

夏野原征くべき吾子を日に放ち

夏日射す召され征く日のなき夫か

饒舌の父子よ夏日野を灼くに

吾がわらひ夏原の日にひびき消ゆ

書よめば卯月は黄なりあやめ草

金星は笑めりまひまひは水に倦み