和歌と俳句

三橋鷹女

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千万年後の恋人へダリヤ剪る

天地のあひびき長し月見草

月見草はらりと宇宙にうらがへる

敗北を負ひ一望の夏草

向日葵の大輪切つてきのふなし

大樹あり若葉してあり信頼す

消えて了へば還る人妻に

麦秋の蝶になぐさめられてゐる

四面楚歌香水左右の耳朶に

蛍火や語らひ合ふといへど僧

老いづまの泳ぐに水着かなしめり

炎天を泣きぬれてゆく蟻のあり

向日葵の一茎がくと陽に離る

今年竹切りしがかぐや姫も出ず

著て照る日はかなし曇る日も

老境や四葩を映す水の底

セル軽く俳諧われを老いしめし

死ぬること独りは淋し行々子

葭切や未来永劫ここは沼

五十あとさき南風の坂道視るものなく

南風の孔雀となりて死に挑む

夏の星我が齢までは数へられる

あめつちの静かなる日も急ぐ

を瞳にひとり途方に昏れてゐる

老ゆるべしの片はし爪先に