和歌と俳句

三橋鷹女

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睡き睫毛のいづれも稚な植田にて

川鳴りだす植田に万の星きらめき

恩讐や五月蛇色ドレス著て

みづすまし翅炎えくれば水を去る

蛍火や昃れば僧衣真つ黒く

水中花必死や弥陀のコツプ透き

寝て覚めて炎昼何の音も無し

晩祷や晩祷ながき薔薇の中

田に清水念仏太鼓痩せ音張り

童女亀を伴れ金の土用波

梅干してをんなの生身酸つぱくなる

のぞきからくり 信玄袋に氷菓入れ

百日紅百日咲いて開かずの門

虹へ小刻み 亡母を背にゆすりあげ

梅干ひとつぶ 骨壷を掻きまはし

陸橋に逸るとかげを連れ戻す

水ながれ来て菖蒲田を栖家とせり

葉ざくら街道老婆らここに行き逢へり

雷鳴や老眸まれに涼しくて

老鶯や泪たまれば啼きにけり

とかげ妙齢尻尾が風を弄ぶ

校庭や乳歯が抜けてさくらんぼ

夏暁鶴のごとくまどろみ晩年

あぢさゐの闇夜も知らぬ深眠り

荒梅雨や一日無言の手習ひ童子