和歌と俳句

梅干

時もはや梅に塩するあつさ哉 野坡

梅干や夕がほひらく屋根の上 子規

梅干にすでに日蔭や一むしろ 碧梧桐

干梅の紅見れば旱雲 碧梧桐

梅干の稍々皺出来て干されけり 虚子

梅干や中山道の小家勝ち 鬼城

梅干すやおどろの髪に白手拭 石鼎

梅干や豁然として四山の日 麦南

茂吉
谷汲は しづかなる寺 くれなゐの 梅干ほしぬ 日のくるるまで

梅干して人は日蔭にかくれけり 汀女

干梅の皺たのもしく夕焼くる しづの女

紅あかく海のほとりに梅を干す 誓子

干梅の上来る酸の風絶えず 誓子

塩噴きしひね梅干を珍重す 風生

梅干してあたりにものの影のなき 風生

梅を干す白の花魁草が咲く 青邨

干梅の程隔りてうつくしき 誓子

干梅や眼をやるたびに紅に 誓子

梅干して来し厨辺のただ暗く 波津女

年どしの一笊の梅岩に干す 誓子

干梅のやはらかさ指触れねども 誓子

星天を夜干の梅になほ祈る 誓子

茂吉
あまつ日の 強き光に さらしたる 梅干の香が 臥処に入り来

梅干すや折焚く柴に笊ながら 青畝

ほの赤き塩こぼれ日日梅を干す 青畝

梅漬ける甲斐あることをするやうに 綾子

干梅の香がせり死なずともよきらし 誓子

夜天より梯子降りて来て梅を干す 鷹女

梅干してをんなの生身酸つぱくなる 鷹女

梅壺の底の暗さよ祖母・母・われ 多佳子

漬梅と女の言葉壺に封ず 多佳子

金銀を封ぜし如き梅壺よ 多佳子

梅干を封ぜし壺のなぜ肩よ 多佳子

紅き梅コロナの炎ゆる直下に干す 多佳子

西日浄土干梅に塩結晶す 多佳子

日を吸うて赤くなる芸梅干され 不死男

神の木の実梅宝蔵ぞひに干す 爽雨