和歌と俳句

トマト

白秋
驚きて猫の熟視むる赤トマトわが投げつけしその赤トマト

牧水
葉がくりにあるはまだ青しあらはなるトマトに紅のいろさしそめて

牧水
一枝に五つのトマトすずなりになりてとりどりに色づかむとす

牧水
汲み入るる水の水泡のうづまきにうかびて赤きトマトーの実よ

牧水
水甕の深きに浮び水のいろにそのくれなゐを映すトマトよ

牧水
舌に溶くるトマトーの色よ匂ひよとたべたべて更に飽かざりにけり

牧水
トマトのくれなゐの皮にほの白く水の粉ぞ吹けるこの冷えたるに

虹たつやとりどり熟れしトマト園 波郷

雨が洗つていつたトマトちぎつては食べ 山頭火

すつかり好きになつたトマトうつくしくうれてくる 山頭火

何はなくとも手づくりのトマトしたたる 山頭火

ゆふざればトマト畑でトマト味ふ 山頭火

さびしうなつてトマトをもぐや澄んだ空 山頭火

けふのおひるは草にすわつてトマトふたつ 山頭火

トマトもぐ手を濡らしたりひた濡らす 悌二郎

千万の宝にたぐひ初トマト 久女

処女の頬のひほふが如し熟れトマト 久女

母美しトマトつくりに面痩せず 久女

朝に灌ぎ夕べに肥し花トマト 久女

降り足りし雨に育ちぬ花トマト 久女

新鮮なトマト喰ふなり慾もあり 久女

けさも二人でトマト畑でトマトをたべる 山頭火

朝風のトマト畑でトマトを食べる 山頭火

トマトの紅昏れて海暮れず 鳳作

トマト売る裸ともしは鈴懸に 鳳作

太陽を孕みしトマトかくも熟れ 鳳作

灼け土にしづくたりつつトマト食ふ 鳳作

トマト熟れ嬉しくてならず子と笑ふ 三鬼

トマト喰ふトマト畑に山遠き 三鬼

我も投げ子も投げトマト天に赤し 三鬼

楽しみの一つに朝のトマトもぐ 花蓑

子の為の朝餉夕餉のトマト汁 立子

靄の視界電柱二本青トマト 茅舎

好きといふ露のトマトをもてなされ 茅舎

夕影に畑土ほてり蕃茄熟る 蛇笏

同じ木の紅蕃茄のみ暮るるなり 誓子

剪る蕃茄や露にふつつりと 誓子

育てたる妻をしのぎて蕃茄の木 誓子

妻も濡る青き蕃茄の俄雨 誓子

トマトもぐ背が抗ひてゐたるなり 楸邨

麺麭とトマト、バッハの曲からペトロの声 草田男