和歌と俳句

黄金虫 こがねむし

金亀虫擲つ闇の深さかな 虚子

こがね虫葉かげを歩む風雨かな 久女

後架灯置くやもんどりうつて金亀子 蛇笏

葉と落ちて紫金まどかや金亀子 石鼎

壇を這ふ金亀子影を離れ飛ぶ 石鼎

絽羽織の肩打つて金亀子葉に帰る 石鼎

夕やけや合歓の葉にのる金亀子 石鼎

羅やつまみはなせし金亀子 石鼎

こがねむしばさりと落ちて静かなる 草城

白秋
黄金蟲 うなり飛び來る この夜ごろ 雲は蒸しかへし 夕凪暑し

白秋
黄金蟲 網戸うちたたく 音きけば すさまじきかなや 灯に狂ひける

白秋
黄金蟲 銃丸と來て 亂れふり この朝見れば なべて死ににけり

白秋
黄金蟲 朝なさな掃き 亡骸の 艶ふかきから 瓶につめつつ

金亀虫擲つ闇をかへし来る 虚子

ぶつかるは灯に急く途の金亀虫 汀女

金亀虫柘榴の花に舞ひ停まる 杞陽

こがね虫吾子音読の燈をうちうつ 多佳子

捉へては猫に啖はする黄金虫 草城

モナリザに仮死いつまでもこがね虫 三鬼

こがね虫胸にぶらさげ校正す 三鬼

赤ん坊の掌の柔かさこがね虫 楸邨

こがね虫朝は殺さず嘆きけり 多佳子

こがね虫闇より来り蚊帳つかむ 三鬼

偽死で甘えて妻へ仰向く黄金蟲 不死男

雲に飛んで楢に戻りぬ黄金蟲 波郷