今敷きし船の毛布や松落葉
寂として残る土階や花茨
卯の花や佛も願はず隠れ住む
山の温泉の一号室や明易き
十薬も咲ける隈あり枳殻邸
門額の大字に点す蝸牛かな
主客閑話ででむし竹を上るなり
怠らぬ読書日課や枇杷を食ふ
高僧も爺で坐しぬ枇杷を食す
上人の俳諧の灯や灯取虫
青田より水の高さや蓴沼
二人して荷ふ夜振の獲物かな
すたれゆく町や蝙蝠人に飛ぶ
御領地の堺木うちに夏野かな
二階人暑さにまけてやめりけり
かちととぶ髪切蟲や茂り中
かくて身は蟻にひかるる毛蟲かな
稚児の手の墨ぞ涼しき松の寺
冷奴死を出で入りしあとの酒
灯消えたり卓上に鮓の香迷ふ
さる程に金魚にもあく奢りかな
君が代の裸みはやせ常陸山
夏痩の細き面輪に冠かな
夏痩の身をつとめけり婦人会
麻の中月の白さに送りけり