和歌と俳句

高浜虚子

前のページ< >次のページ

今敷きし船の毛布や松落葉

寂として残る土階や花茨

卯の花や佛も願はず隠れ住む

山の温泉の一号室や明易き

十薬も咲ける隈あり枳殻邸

門額の大字に点す蝸牛かな

主客閑話ででむし竹を上るなり

怠らぬ読書日課や枇杷を食ふ

高僧も爺で坐しぬ枇杷を食す

上人の俳諧の灯や灯取虫

青田より水の高さや蓴沼

二人して荷ふ夜振の獲物かな

すたれゆく町や蝙蝠人に飛ぶ

御領地の堺木うちに夏野かな

二階人暑さにまけてやめりけり

かちととぶ髪切蟲や茂り中

かくて身は蟻にひかるる毛蟲かな

稚児の手の墨ぞ涼しき松の寺

冷奴死を出で入りしあとの酒

灯消えたり卓上にの香迷ふ

さる程に金魚にもあく奢りかな

君が代の裸みはやせ常陸山

夏痩の細き面輪に冠かな

夏痩の身をつとめけり婦人会

の中月の白さに送りけり

著て假の世にある我等かな

酒旗高し高野の麓鮎の里

老僧の骨刺しに来る藪蚊かな

明易き第一峰のお寺かな

我犬のきき耳や何夏木立

鹽蓼の壺中に減るや自ら

羽抜鶏吃々として高音かな

ぢぢと鳴く蝉草にある夕立かな

金亀虫擲つ闇の深さかな

へと人没し去る葎かな

駒の鼻ふくれて動くかな

葛水にかき餅添へて出されけり

旅中頑健飯の代りに心太

岸に釣る人の欠伸や舟遊

曝書風強し赤本飛んで金平怒る

書函序あり天地玄黄と曝しけり

年々や三本つくる帚草

白き雲鼠にかはる百日紅

病葉や大地に何の病ある

頼政も鵺も昔の宿帳に