和歌と俳句

高浜虚子

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明治29年

両岸の若葉せまりて船早し

茨の花二軒竝んで貸家あり

裏戸近く夕汐さすや茨の花

日高きに宿もとめ得つ栗の花

五月雨の雲に灯うつる峯の寺

の多き根岸に更けて詩会あり

古蚊帳の大いなるを僧にまゐらせつ

蚊帳越しに薬煮る母をかなしみつ

月出でて鬼にもならぬ蚊遣かな

病む人の蚊遣見てゐる蚊帳の中

薫風や白帆竝びかねつ八郎潟

薫風に昼のともし火瀧の前

故郷の月ほととぎすでもなきさうな

縄朽ちて水鶏叩けばあく戸なり

岩の上に金冠のこる清水かな

旅人の酒冷したる清水かな

女多き四條五條の涼みかな

先生が盗人でおはせしか

鮒鮓や膳所の城下に浪々の身

いくさになれて鮓売りにくる女かな

人病むやひたと来て鳴く壁の

帰省して書斎なつかしむ澁団扇

明治30年

五六騎のかくれし寺や棕櫚の花

藻の花に日当らざるお堀かな

溝板踏んでの中に入る裏戸かな

山を越えて他藩に出でし夏野かな