和歌と俳句

蚊遣り 蚊遣火

子規
家々に ふすぶる蚊遣 なびきあひ 墨田の川に 夕けぶりたつ

鉢木の謡にむせぶ蚊遣哉 子規

山寺の方丈深き蚊遣哉 子規

何なりと草さしくべる蚊遣哉 子規

旅籠屋の飯くふそばに蚊遣哉 子規

なぐさみに蚊遣す須磨の薄月夜 子規

蚊遣火や老母此頃わづらひぬ 子規

うき人の顔そむけたる蚊遣かな 漱石

月出でて鬼にもならぬ蚊遣かな 虚子

病む人の蚊遣見てゐる蚊帳の中 虚子

となりから月曇らする蚊やり哉 漱石

蚊遣火の煙遮る団扇かな 虚子

蚊遣火やこの時出づる蚊喰鳥 虚子

蚊遣火や縁に置いたる馬の沓 虚子

たかどのに源氏の君が蚊遣かな 蛇笏

さし汐の時の軒端や蚊遣焚く 蛇笏

蚊遣火や縁に腰かけ話し去る 虚子

文を売りて薬にかふる蚊遣かな 漱石

棋に寄ると君を囲むと蚊遣して 碧梧桐

蚊火焚くや江を汲む妻を遠くより 蛇笏

いとどしく月に蚊火たく田守かな 蛇笏

旅労れと病ひやつれに蚊遣して 碧梧桐

蚊いぶしに浅間颪の名残かな 鬼城

老杣のあぐらにくらき蚊遣かな 石鼎

山家人したたかくべる蚊遣かな 石鼎

崖錆にいたみし軒の蚊遣かな 石鼎

大木を伐りし疲れや蚊遣たく 泊雲

蚊火の煙盛んに立ちて月早し 花蓑

蚊火燃えて起居浮べり椎の宿 泊雲

一しきり月を燻せる蚊遣かな 喜舟

千樫
夕されば馬の親子はかへり居り蚊遣してやるその厩べを

千樫
夕ふかしうまやの蚊遣燃え立ちて親子の馬の顔あかく見ゆ

上げ潮に乗り来る舟の蚊遣り哉 石鼎

蚊いぶしの舳を浚ふ追風かな 青畝

蚊遣火や夕焼冷むる淡路島 たかし

蚊火消ゆや乗鞍岳に星ひとつ 秋櫻子

蚊遣して出づるや蜑が軒つづき 秋櫻子