和歌と俳句

正岡子規

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さみだれに ひるくらければ あくるとも しらでや酉の ねやになくらん

なにしおふ すみ田の川の 川波の にごりて黒し さみだれの雨

さなきだに 夜はあやなきを 五月雨に 聲ふりたてて なくほととぎす

歌ふ聲は 遠く聞えて 柴舟の 霧の中より あらはれにけり

あけぼのに 渡りの舟の 行へだに 見わかぬまでに 霧はこめけり

五月雨は いたくなふりそ 墨田川 水の濁らば いかがおよがん

さみだれの 間なく時なく ふる空の このもかのもに 光見えけり

ます鏡 すみだの川の 濁り江に 濁らでうつる 月の影かな

川すずみ 風ふくかたを 打見れば ふじのたかねに 雪ぞのこれる

こぎもせで 帆をふく風に 舟人の 水掬びつつ 夕涼かな

家々に ふすぶる蚊遣 なびきあひ 墨田の川に 夕けぶりたつ

日はくれて まだ夜ならぬ 夕すずみ かたへすずしき 風ぞ吹ける

さなきだに 夕の風は 涼しきを 樅の梢に 月も出けり

まれ人の けふは来にけり 草の戸に ちからのかぎり 吹けや川風

歸りにし あともなつかし 水の面に ありありのこる 船の路哉

かりの名も まこととなりぬ 都鳥 いざこと問ん そのかみの事

花の香を 若葉にこめて かぐはしき 櫻の餅 家づとにせよ

はれながら てる稲妻は 月のいろと いづれまさると 光あらそふ

ながしやる 火影のうすく なるままに 我身につもる 罪やけぬらん

諸人は 世のまがつみに 会津なる ふじのけぶりと 消失にけり