和歌と俳句

正岡子規

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かりそめに 人になとひそ 眞心を 花にとふとも ふみにとふとも

むさし野に 消えにし露の 名残にや 我のみ今も 袖しぼるらん

千さと行く たつたの馬とても 及ぶまじ まなびの道も かくやいそがん

しがらみを 早くこえこえ すすむ也 世のさまたげも こえてゆかまし

杖あらば いかなるものも こえぬべし 我たのむべき 杖はこのふみ

海神も 恐るる君か 船路には 灘の波風 しづかなるらん

ひたすらに たけきのみかは 子を思ふ 心ぞ熊の 心なりける

あら鷹の あらき心も 何ならん ならせばなるる ものにぞありける

岩ふみて 落ちくる瀧を 仰ぎ見れば 空にしられぬ 霧ぞふりける

うちあけて 心のそこも 見せながら 瀧の名こそは うらみなりけれ

すさましく なりてうづまく 水にだも ゆらがぬ岩に たてる御佛

落つる水の 細くわかれて 涼しくも 風にゆらめく 玉簾哉

水とのみ 思ひしものを 流れつる 瀧はわきたつ いでゆなりけり

いく坂を のぼりのぼりて 尋ねきし 山の上にも うみを見る哉

見渡せば はるかの沖の もろ舟の 帆にふく風ぞ 涼しかりける

我こひは あはでの浦の いそによる みるめばかりや あふこともなし

檐のはに うゑつらねたる 樫の木の 下枝をあらみ 白帆行く見ゆ

千早振 神の宮居の 榊葉を おきふし仰ぐ 我すまひかな

五月雨に 四方のながめも なかりけり 堤をゆする 隅田の川波

さみだれに すだの川水 まさるらん 見なれぬきしに 舟つなぐなり