和歌と俳句

水原秋櫻子

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15

百合赤し夕立晴れし草の中

夜の雲に噴煙うつる新樹かな

焼岳のはだへの荒き新樹かな

帰省子に葉がくれ茄子の濃紫

なつかしや帰省の馬車に山の蝶

桑の実の照るに堪へゆく帰省かな

やうやくに倦みし帰省や青葡萄

桑の実や湖のにほひの真昼時

麦笛や雨あがりたる垣のそと

おもがげやその夏痩の髪ゆたか

山彦のゐてさびしさやハンモツク

夜船待つひとまどろみに蚊帳くらし

箸とれど極暑の膳の興もなし

孔雀草かがやく日照続くかな

水中花顫ひとけたる花瓣かな

中元のいつもの画なる団扇かな

桟橋に出て夕凪の団扇かな

姿見に見ゆる風鈴鳴りにけり

風鈴の荷に川風や橋の上

定斎売わたりかけたり佃橋

楫の音夕づきそめぬ青簾

睡たさのうなじおとなし天瓜粉

蚊遣して出づるや蜑が軒つづき

鰡はねて河面暗し蚊喰鳥

涼み舟洲に乗り上げし真暗がり