厨子の前望のひかりの来てゐたり
燭あかく弥勒のおはす良夜かな
馬追のまづ鳴きいでし良夜かな
ふくろふの口ごもり鳴ける良夜かな
五位鷺の森さわがしき良夜かな
葛飾の花火ときける夜道かな
新涼の浪ひるがへり蜑が窓
波の音けふ高けれどきりぎりす
街道に芙蓉の家の静かかな
萩寺の門宵闇となりにけり
宵闇や通ひなれたる芋畑
鯊釣や友舟とほき澪標
鯊釣や不二暮れそめて手を洗ふ
鯊釣や西日にかぶる古帽子
鰡釣に波の曙うまれけり
栗焼けば寝そびれあそぶ末子かな
大嶺と暮れてあやなき案山子かな
夕月のたへにも繊き案山子かな
鈴生りの大樹の柿や鳥威し
秋耕や遠畝廻りぬ石たたき
灯のいろのしづけき宵ぞ絵燈籠
釣人に隠れ家の菊見られけり
秋燈や学期はじめの寮の窓
秋水や蘆にせばまりまた広く