水原秋櫻子
蛍火の細藺にすがる水あかり
繭干すや窓なる谿は名栗川
奥津城やはろかの峡に田草取
浴泉や青嵐して箒川
山川や青葉の淵を渡し舟
蟹失せて蕗のはびこる山路かな
鯰ぞと灯かざす魚籠の底のもの
山宿や花桐がくれ屋根の石
駅高く青葉の峡となりにけり
日さびし葭切鳴いて出水川
青春のすぎにしこころ苺喰ふ
皆咲きし今宵の蕾月見草
植ゑかへてダリヤ垂れをり雲の峰
雷雨待つ船みな錨投げにけり
庭下駄は風雨に古りぬ蝸牛
堰に来てほろがる野川水馬
つれづれに跼めば跳ねて水馬
野川溢れて夕栄すなり水馬
水馬雷後の水をわたるかな
麦埃浮べて利根の一支流
君が墓来つつ見守りぬ蛇苺
ふるさとの沼のにほひや蛇苺