和歌と俳句

水原秋櫻子

卓を据ゑ御佛を置けり冬籠

御佛とこもりゐるからに寒きびし

霜冴えて御佛の古りし金照らふ

雨さむく爐明り膝にさすもよし

露路にふる寒雨障子にひびきふる

障子あけ寒雨ひかるを耐へて見つ

枯れし歯朶古りし井筒に雨凍り

額枯れて寒雨に打たれしづくする

障子さし寒雨をきゝて澄み入りぬ

眼に見るは松の花のみ地は真砂

木瓜咲くや伽藍ありけむあとどころ

旅路来てをがむみささぎの松の花

松の花旅ごろも置きて手をきよむ

畝傍山放てる鳶のこゑかすむ

畝傍町鯉幟立てり見のすがし

橿原の宮は春蝉の厳かに

牡丹咲き塔頭に光あふれたり

牡丹咲く炎にひくき築地あり

旅人われ牡丹の客の中にゐる

牡丹燃えのなだれ眼にせまる

牡丹燃え大和広野を見はるかす

まかりゆく牡丹の客のしづかなる

岨の家牡丹に大き簷潰ゆ

眞白雲甲斐駒に湧けり山躑躅

桐咲けり雲凝りし上に岳の見ゆ

あわたゞし桐躑躅咲き桑伸びたり

牡丹燃え甲斐駒雲に入らんとす

山路ゆき塗畦のひかる谷を見る

峠尽き夏霞む眼路に諏訪の湖

諏訪の湖の端の苗代見えてすがし

湖お波走り苗代をうつが見ゆ

八ケ岳裾の夏野に雲むらがる

御柱立つると磴に人あふる