水原秋櫻子
雲のゐしあとか楓の花濡れつ
筒鳥や雲磐梯にのぼり消ゆ
火口壁かたむき新樹せまりたり
夏の鴨瑠璃沼に魚を獲て翔ける
初あらし灯影水路にはしり消ゆ
初あらし水路劃線を撓めたり
時計員ゴール目守れば初あらし
岨に坐ひ秋渓に伏すも松ばかり
秋山はめぐり幾瀬のこもり鳴る
瀧津瀬にさしいでし松の秋日和
鶺鴒のひるがへり入る松青し
櫨紅葉激湍左右に落つるところ
懸巣鳴き渓聲道をやや離る
紅葉舞ひ仔馬が炭を負ひくだる
末枯を行くに親しき落暉あり
末枯に松立ち落暉静かなり
鵯飛ぶと見れば畑中に柿のこる
稲架ひとつ残照の沼の中に立つ
雲やぶれつきほのかなり鴨渡る
鴨渡る月下蘆荻の音もなし
鴨わたり月もけはしき雲をわたる