和歌と俳句

水原秋櫻子

鰯雲野に上棟の酒を酌む

都より疲れもどりてを焼く

野分めく夜明の雲に剣岳

雁の空大風ひびきわたりけり

流水や落鮎しげき嵐あと

新涼の雲堂塵を許さざり

蕎麦咲けり雲水峡をいできたる

斎をうく合掌唱偈秋の風

僧堂の飯の白さよ新豆腐

大野分すぎて法堂ゆるぎなし

金鼓打ち霧とよもすや秋の暮

秋雨や河はしづかに荒るる海

落つる瀬に案山子うなづくばかりなり

芒野の鳶より低し賤ケ岳

わたり鳥しづめる谷は屋島かも

日は西に菊売ならぶ博多川

残るものなくて浪寄る昼の虫

鯊釣に荻吹く風や多々良川

青芝へ夜もあけはなつ轡虫

穂芒や水なき川が海に落つ

押しいでし熔岩に朱欒の邑のこる

秋風やその名親しき墓並ぶ

懸巣鳴き遠雲脱げり櫻島

芒晴れけぶりさだかに櫻島

龍膽や雨走らしむ峰の雲

河豚食ふや伊万里の皿の菊模様

朱欒売海を見てをり船出前