杉山の妹山芽立つかなしさよ
杉山の背山は余花を裾にせり
をだまきや乾きてしろき吉野紙
瀧いくつ懸けて尽きける吉野川
北山川みなもとの瀧ぞ羊歯をうつ
那智の神灘守りたまふ吹流し
羊歯萌えて御空より瀧落ちにけり
眼張寿司熊野の春を惜めやと
磧湯の八十八夜星くらし
いびつ餅茶筒に新茶あふれつつ
硫黄の湯噴くやむせびて田掻牛
山帰来若葉渦巻く串峠
清姫といふ邑すぎて芥子紅し
吹き降りに目高の甕の溢れをり
狐の提灯古みち失せて咲きにけり
荒寥と芽立遅るる雨蛙
黄鶺鴒泉に舞へる蛾を獲たり
牧すがし遠黒鶫霧に鳴き
雨蛙牧舎のやどり風呂湧きて
幻燈の浅間かがやく梅雨の壁
岩燕廂下いでゆく明易き
梅雨霧の胡桃につなぐ牛荒し
郭公や牧夫の貌が鬚の中
とまり木に老いける鷲や青あらし
初蝉に信濃胡桃は蔭ひろし