和歌と俳句

水原秋櫻子

炬燵して渓声雨声暮れゆけり

谿の温泉は空はるかなり凧揚ぐる

枯蔓の日蔭日向と綯ふひかり

鰤漁の荒るる沖見ゆ港口

海鼠舟よろめき戻る防波堤

暁紅や浦ひびき出づ鰤の漁

出づる日の金色垂りぬ寒の海

白魚舟片々蓑を着てかへる

桜餅民芸茶器に秀でけり

黄塵やまづ立塞ぐ甲州路

堰の戸に田螺百あまり暖かし

雪の戸のたたかれて蟹届きけり

蒲公英の十日の花が絮となる

辛夷咲き善福寺川縷の如し

見はるかす山河はあれど牡丹の芽

をだまきや旅愁はや湧く旅のまへ

遠足の半ばは持てり夏蜜柑

紫雲英田と湖の入江と相侵す

もつれつつ瀬波の影の鯉となる

生ひしたたりたまふ磨崖佛

巣鳥鳴き女人高野の鐘ひびく

石楠花や谷をゆるがす朝の鐘

おん眉に若葉影さし又消えぬ

如意輪寺旅の朝寝に靄ふかし