炬燵して渓声雨声暮れゆけり
谿の温泉は空はるかなり凧揚ぐる
枯蔓の日蔭日向と綯ふひかり
鰤漁の荒るる沖見ゆ港口
海鼠舟よろめき戻る防波堤
暁紅や浦ひびき出づ鰤の漁
出づる日の金色垂りぬ寒の海
白魚舟片々蓑を着てかへる
桜餅民芸茶器に秀でけり
黄塵やまづ立塞ぐ甲州路
堰の戸に田螺百あまり暖かし
雪の戸のたたかれて蟹届きけり
蒲公英の十日の花が絮となる
辛夷咲き善福寺川縷の如し
見はるかす山河はあれど牡丹の芽
をだまきや旅愁はや湧く旅のまへ
遠足の半ばは持てり夏蜜柑
紫雲英田と湖の入江と相侵す
もつれつつ瀬波の影の鯉となる
蕨生ひしたたりたまふ磨崖佛
巣鳥鳴き女人高野の鐘ひびく
石楠花や谷をゆるがす朝の鐘
おん眉に若葉影さし又消えぬ
如意輪寺旅の朝寝に靄ふかし