和歌と俳句

水原秋櫻子

木々の芽の朝は白妙の富士も見ゆ

朝靄の丘はほのぼのと芽立つらし

ひとり居の朝やうち向ふ鐵線花

抱きかへる牡丹芬々と鉢重し

遠眞菰すでになびけり田を植うる

梅雨の夜のひと夜風吹き星こぼれ

沼ちかき小田の家居も菖蒲どき

樹の膚の朝の青さや若葉季

樹の膚に朱を打つ蟲や若葉季

樹の瘤に刷きたる苔や若葉季

禽の尾の梢にながし若葉季

夏薊ほたるぶくろと山の蝶

山萩のほつほつ咲けば雲きたる

先ゆくは山家の人か日傘せる

山畑や麦まだからぬ梅雨の雲

やぶさめや山路なほ咲くすひかづら

慈悲心鳥わきつぐ霧の渓ふかし

慈悲心鳥霧吹きのぼり聲とほき

倒れ木に憩ふや梅雨のみそさゞい

みそさゞい高鳴くときぞ雷とゞろく

夕立来ぬ峠路すでに雲の中

鳴く夜鷹夕立にうたれ聲つゞく

梅雨の月黒檜に湧きし雲をいづ

月照るや雲より高き梅雨の山

樅の芽を花とは見せつ梅雨の月