和歌と俳句

水原秋櫻子

晒井にはじまる幕や夏芝居

初蝉をききとむ驟雨はしる中

洗硯やそよぐ楓に雨蛙

紫陽花と競ひまさるや七変化

炎天の崖崩しをり十餘丈

甚平やいづこの染の藍縮

草に落ち蝉鳴きいづる雨後の月

月ながら雨いくたびや油蝉

辻々の夜の向日葵や町はづれ

藁葺の庭のダリアも町はづれ

法師蝉立秋告げてまた鳴かず

朝顔や客が好みの立話

軽雷の置き去る雨や鳳仙花

奥武蔵指す街道や法師蝉

山葡萄杉に紅葉をかかげけり

人を見ず来しが障子を洗ふ声

立ちどまる辻の暗さや草雲雀

雨くらきわびしさに茹でてをり

山雨来る雲の中なり葡萄

コスモスの凡そ百輪色同じ

嘴のあと残るが甘し百匁

草紅葉敷きて岐るる鶴見川

鉢の菊門より見えて菊日和

色鳥の啄みをるは隠れなき

色鳥の見えねどゐるや石の蔭