水原秋櫻子

馬追に月も澄みけりいね難し

馬追や月をよこぎる萩一枝

栗の菓子鄙びて落葉聴く如し

籐椅子にまどろむ刻ぞきりぎりす

待宵や邯鄲籠に鳴きいでて

邯鄲の夢路追ひ来て鳴きつづく

轡虫ナイターもつれ果て知らず

忘れ得ぬ日や初花の酔芙蓉

虫時雨諸山の護符の影ならぶ

夜半の咳おのれは知らず菊日和

土瓶蒸客も刷毛目を好みけり

べつたらや一幕見して戻り道

刈込にこほろぎのみぞこもり鳴く

刈込に蟷螂あまたゐて青き

刈込の香は柊も咲けるらし

花圃の露剪るに全き花もなし

隣り住みし北原氏なる白秋忌

雑炊に刈上餅をしづめけり

山鳩よ今朝はいづこの落葉焚

廃園のさきがけにけり落葉焚

庭隅の金魚の甕も冬囲