寒餅の切口厚し不揃ひに
舌焼きてなほ寄せ鍋に執しけり
大寒の三たび湯浴みて明けにけり
枕頭に蝋梅庭は雪しろし
山鳩の見上げてをれど梅いまだ
百日の一間籠りや梅遅速
一椀の飯の掟や花菜漬
春泥や遠く来て買ふ花の種
老ふたり病むを見たまふ雛のあり
白魚飯けふも炊くなり老ふたり
降りつつむ雨の明るし更紗木瓜
花の香か黒髪の香か月おぼろ
月越しの咳抜けにけり蓬餅
梨の木と知らでありしが梨咲ける
百歩にて返す散歩や母子草
伏せ置きし甕も今日より金魚飼ふ
下剃の研ぐ庖丁や初松魚
普賢寺観音いませる邑の新茶なり
孵りたる目高微塵や田植時
朴の花見て来て網戸入れにけり
新茶の香をまとひ来し渓釣師
妖しさは切りはらひても蜘蛛の糸
白玉のよろこび通る喉の奥
朝ぐもり無吟の青き蝉ひとつ
鳴き交す蝉は見えねど幹ふたつ