和歌と俳句

水原秋櫻子

寒餅の切口厚し不揃ひに

舌焼きてなほ寄せ鍋に執しけり

大寒の三たび湯浴みて明けにけり

枕頭に蝋梅庭は雪しろし

山鳩の見上げてをれど梅いまだ

百日の一間籠りや梅遅速

一椀の飯の掟や花菜漬

春泥や遠く来て買ふ花の種

老ふたり病むを見たまふのあり

白魚飯けふも炊くなり老ふたり

降りつつむ雨の明るし更紗木瓜

花の香か黒髪の香か月おぼろ

月越しの咳抜けにけり蓬餅

梨の木と知らでありしが咲ける

百歩にて返す散歩や母子草

伏せ置きし甕も今日より金魚飼ふ

下剃の研ぐ庖丁や初松魚

普賢寺観音いませる邑の新茶なり

孵りたる目高微塵や田植時

朴の花見て来て網戸入れにけり

新茶の香をまとひ来し渓釣師

妖しさは切りはらひても蜘蛛の糸

白玉のよろこび通る喉の奥

朝ぐもり無吟の青き蝉ひとつ

鳴き交すは見えねど幹ふたつ