和歌と俳句

新茶

山水に新茶のわかる筧かな 才麿

点心はまづしけれども新茶かな 龍之介

新茶して五ヶ国の王に居る身かな 鬼城

売出しの新茶うれしき風爐茶かな 万太郎

花過ぎてゆふべ人恋ふ新茶かな 水巴

方丈に今とどきたる新茶かな 虚子

とろとろと舌に触れたる新茶かな 草城

玉巻きし芭蕉ほどけし新茶かな 茅舎

新茶汲むや終りの雫汲みわけて 久女

壺一つのりたる棚の新茶かな 青畝

客僧の噛みこゝろむる新茶かな 爽雨

方寸の壺にあふるる新茶かな 普羅

サラサラと和尚がこぼす新茶かな 普羅

閑かにて新茶汲まるる音ひびく 草城

耽読の額のあがる新茶かな 草城

青新茶土間にこぼしてはかりけり かな女

新茶淹れ父はおはしきその遠さ 楸邨

怒らねばわがくむ新茶すするのみ 知世子

明日は立つ里の新茶の香になごむ 占魚

簡単に新茶おくると便りかな 虚子

生きてゐるしるしに新茶おくるとか 虚子

新茶よりはじまるけふの空腹か 楸邨

又しても新茶到来僧機嫌 虚子

掃き入れて新茶のかをり箕にあふる 秋櫻子

新茶買ふ今宵の料に旅づとに 爽雨

老の手のきほひ傾け新茶くむ 爽雨

旅立の前の養ひ新茶くむ 爽雨

意のままに汲めよと新茶古茶の壺 爽雨

彼一語我一語新茶淹れながら 虚子

新茶よし碧瑠璃と云はんには薄し 虚子

蒟蒻屋六兵衛和尚新茶かな 万太郎

いびつ餅茶筒に新茶あふれつつ 秋櫻子

新茶くむ茶山と谷をへだつ居に 爽雨

新茶くむしづく配りに十余客 爽雨

冨士を前いろよき新茶おきな飴 悌二郎

白きへと移る山吹新茶くむ 爽雨

巨き掌を賜ひ新茶を賜ひけり 波郷

師が賞づる新茶は狭山賜ひけり 波郷

新茶くむ対座のひまを夜気ながれ 爽雨

宿の古茶持参の新茶着きて汲む 爽雨

わが碗にをさみししづく新茶くむ 爽雨

新茶買ふ壺みな光る宵の灯に 爽雨

新茶くむ宇治の朝けは窓に瀬々 爽雨

籠明けて土間に一番茶のみどり 静塔

箕の上に新茶の形縮れさせ 静塔

人の上の一人暗しも新茶くむ 爽雨

大事また過ぎやすかりし新茶汲む 爽雨

普賢寺観音いませる邑の新茶なり 秋櫻子

新茶の香をまとひ来し渓釣師 秋櫻子

新茶腹五十三次惚れながら 静塔

呑みほすや新茶の味の切目なし 静塔

わが町の店の新茶のはたと出づ 爽雨

新茶一滴のこる胃に享け生き得たり 林火