和歌と俳句

椎本才麿

堂形や今ぞさかへん大矢数

一文の酢の銭落す鵜川かな

何糸か鏡にたるるころもがへ

単物ぬぐや漁の首途酒

虫干や人丸赤人の袖の風

山水に新茶のわかる筧かな

夏切や細川殿の八重むぐら

里の子よ撚籠に似ぬ心もて

唐猫に五月の玉やたますだれ

物おもふ暮や黄色なぬり団

はやう寝る隣を待ぬ涼み笛

青むしろ風と並ぶや美少年

浅ましやまゆ烹る賤はつづれきて

松風や昼寝の蠅の羽買山

里の子や麦わら笛の青葉山

冷汁の寺へ登つてしらが哉

からし酢や鼻に夏なきところてん

御輿洗ひはぎの白さや神楽神子

数珠玉や里の下草ふじ詣

禿山や夏をしらする郭公

雲まれに世は子規の日照也

郭公はるかに蜀の新茶哉

観農の鳥に夜を寐ぬ野鍛冶哉

田中菴水鶏音を何と鳴鼈

鴨の巣や鯛うく比の堂が浦