和歌と俳句

衣更 ころもがえ

後撰集 よみ人しらず
けふよりは 夏の衣に なりぬれど 着る人さへは かはらざりけり

好忠
夏の日の 菅の根よりも 長きをぞ 衣ぬぎかへ 暮しわびぬる

重之
花の色に 染めし袂の 惜しければ 衣かへうき 今日にもある哉

源氏物語・まぼろし
夏ごろも たちかへてける 今日ばかり 古き思ひも すずみやはする

源氏物語・まぼろし
羽衣の うすきにかはる 今日よりは 空蝉の世ぞ いとど悲しき

和泉式部
桜色に 染めし衣を ぬぎかへて 山ほととぎす 今日よりぞ待つ

千載集 匡房
夏衣 花のたもとに ぬぎかへて 春の形見も とまらざりけり

千載集 基俊
けさかふる 蝉の羽衣 着てみれば たもとに夏は たつにぞありける

俊成
春とても 花のいろにも 染めざりし 賤の衣も 更へむとやする

西行
かぎりあれば 衣ばかりは ぬぎかへて 心は春を 慕ふなりけり

寂蓮
花の色に 袂は染めぬ 身なれども よそにも惜しき 衣更へかな

式子内親王
春の色のかへうき衣脱ぎ捨てし昔にあらぬ袖ぞ露けき

定家
花の色を惜しむ心はつきもせで袖はひとへにかはりぬるかな

定家
春なつのおのがきぬぎぬぬぎかへてかさねしそでを猶をしむかな

定家
いかにせむひとへにかはる袖のうへにかさねてをしき花のわかれを

定家
ぬぎかふる蝉の羽ごろも袖ぬれて春の名残をしのび音ぞなく

定家
けふごとにひとへにかふる夏衣猶いくとせを重ねてかきむ

俊成
けふもまためづらしきかなももしきや雲の上人ころもかへして

定家
へだてつるけふたちかふる夏衣ころもまだへぬ花の名残を

慈円
春のきぬを 涙ながらや ぬぎかへて 惜しみけりとも 人にしられむ

定家
桜色の袖もひとへにかはるまでうつりにけりなすぐる月日は

俊成
衣こそかふともかへめ春のいろに染めし心はいつかうつらむ

良経
さを姫になれし衣をぬぎかへてこひしかるべき春の袖かな

良経
花の袖かへまくおしきけふなれや山ほとゝきすこゑは遅きに

実朝
おしみこし花の袂もぬぎかへつ人の心ぞ夏にはありける