和歌と俳句

雛罌粟 虞美人草

利玄
花びらの真紅の光澤に強き日を照り返し居る雛芥子の花

白秋
昨日君がありしところにいまは赤く鏡にうつり虞美人草のさく

晶子
折りたまへ 開け給ふべき 戸じるしに 廊に散らさむ ひなげしの花

晶子
けふの世に歩み入りける日の初めかすかに見ゆるひなげしの花

晶子
ああ皐月仏蘭西の野は火の色す君も雛罌粟われも雛罌粟

晶子
夏川のセエヌに臨むよき酒場フックの荘の雛罌粟の花

晶子
恋しげに覗けるは誰れ靄立てる夜明の家のひなげしの花

ひなげしや夜ごと夜ごとのあけやすき 龍之介

晶子
初夏や耳には聞かぬ轟きのうづまくもとのひなげしの花

晶子
ひなげしが置かれし膝の並ぶなるセエヌの船の狭き甲板

晶子
あかつきにわが来ることを知るごとし初夏の野のひなげしの花

晶子
雛罌粟も身を逆しまになすはては萱の草より淋しからまし

晶子
いにしへのわが心臓の賑はしき祭も覚ゆひなげし見れば

晶子
鮮かに黒き班のある雛罌粟をしるしに置きて病す五月

龍之介
ひな芥子は花びら乾き茎よわし

晶子
散る時も開く初めのときめきを失はぬなり雛罌粟の花

晶子
時は午路の上には日かげちり畑の土にはひなげしのちる

晶子
天に去る薔薇のたましひ地の上に崩れて生くるひなげしの花

晶子
人の云ふいつはりにだに動きゆく心と見ゆるひなげしの花

晶子
雛罌粟はたけなはに燃ゆあはれなり時もところも人も忘れて

晶子
うすものの女の友を待ちえたる松戸の丘のひなげしの花

ひなげしや妻ともつかで美しき 草城

虞美人草のしきりに曲り明易し 普羅

咲きやんで雛罌粟雨に打たれ居り 普羅

ひなげしの花びらを吹きかむりたる 素十

ひなげしの花びらたたむ真似ばかり 青畝

ひなげしのにこ毛の蕾花に添ひ 蛇笏

雛芥子に秋風めきて日の当る 虚子