北原白秋

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洋妾の 長き湯浴を かいま見る 黄なる戸外の つばくらのむれ

ふはふはと たんぽぽの飛び あかあかと 夕日の光り 人の歩める

乳のみ兒の 肌のさはりか 三の絃 なするひびきか 春のくれゆく

魔法つかひ 鈴振花の 内部に泣く 心地こそすれ 春の日はゆく

「春」はまた とんぼがへりを する兒らの 悲しき頬のみ 見つつかへるや

美くしき かなしき痛き 放埓の 薄らあかりに 堪へぬこころか

ものづかれ そのやはらかき 青縞の ふらんねるきて なげくわが恋

わがゆめは おいらん草の 香のごとし 雨ふれば濡れ 風吹けばちる

アーク燈 點れるかげを あるかなし の飛ぶは あはれなるかな

なにとなく 軍鶏の啼く夜の 月あかり いぶかしみつつ 立てる女かな

すつきりと 筑前博多の 帯をしめ 忍び来し夜の 白ゆりの花

ぬばたまの 銀杏がへしの 君がたぼ 美し黒し 蓮の花さく

水盤の 水にひたれる ヒヤシンス ほのかに咲きて 物思はする

フラスコに 青きリキユール さしよせて 寝ればよしなや 月さしにけり

二上りの 宵のながしを ききしより すて身のわれと なりにけむかも

雪の下 白く小さく 咲きにけり 喜蝶が部屋の 箱庭の山

わかき身の 感じ易さよ 硝子杯の 薄き罅にも 心染みつつ

顫へ易く 傷つき易き 心あり 薄らあかりに ちる花もあり

木の枝に 青き小鳥の とまりゐて ただほれぼれと 鳴ける品川

玉虫の 一羽光りて 飛びゆける その空ながめ をんな寝そべる

和歌と俳句