和歌と俳句

日野草城

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夏草のほとぼり冷むる月夜かな

夏草に砕けて赤き煉瓦かな

夏草に日落ちて馬車が迅くなる

夏草や心中者の下駄二足

しこぐさの茂りておぞや刈られけり

高牧へ道うねくねや草いきれ

汗馬の筋張る腹や草いきれ

そよ風を受くる早苗のいとしさよ

しみじみと青稲暮るる身のまはり

負うて一にん来る夕日かな

月明や廃墟このあたり残る

城門を出て坂道やの月

棄猫のないて麻畑月夜かな

さらさらと蝮隠れぬ青すすき

石菖にすがりて昼の白蛾かな

すはすはと石菖生へり水ほとり

ぼうたんや眠たき妻の横坐り

うたたねの覚めしたまゆら牡丹散る

白猫の眠りこけたる牡丹かな

ぼうたんやたわたわとして三五輪

玄海のうしほのひびく牡丹かな

芍薬に頭痛はげしき女かな

芍薬を剪るしろがねの鋏かな

薄月や風に触れゐる芥子の花

ひなげしや妻ともつかで美しき