牡丹の一弁落ちぬ俳諧史
彼一語我一語新茶淹れながら
新茶よし碧瑠璃と云はんには薄し
山やうやく左右に迫りて田植かな
懐しや子規が浴せし山の温泉
桑畑や女蓑著て頬被り
白糸の滝も眺めや最上川
俳諧を守りの神の涼しさよ
大杉の又日を失し蔓手毬
石に点し竹に点せし蝸牛
子を守りて大緑蔭を領したる
寺の門はひらんとして風涼し
わが家も住みよかりけり青簾
青簾世に隠れんとには非ず
山寺や少々重き夏蒲団
梅雨暗し床の花瓶の花白し
蜘蛛に生れ網をかけねばばらぬかな
浴衣著てわれも仏と山寺に
ほととぎす鳴くや仕合せ不仕合せ
並び立つ松の蕊あり雲の峰
涼しさや三年来ざりし山の荘
夜の富士心にねむる避暑の荘
山の日に乾き吹かるる浴衣かな
風雪にいたみし山の荘に避暑
寿を守る槐の木あり花咲きぬ
心足り即ち下山避暑五日
線と丸電信棒と田植傘
夏草に埃の如き蝶の飛ぶ
しわしわと鴉飛びゆく田植かな
前山の緑かたまり庭に飛び
車降り我と夏木と佇みぬ
春蝉や嘗て住みたる比叡の奥
かびの香に昼寐してをり山の坊
湯を出でて満山の涼我に在り
我生の美しき虹皆消えぬ
夏山に対して朝の息をする
俳諧の灯ともりけり月見草
風生と死の話して涼しさよ
朝の蜘蛛殺さで払ふ避暑の荘
年々に月見草咲き家建たず
虎杖の花に牧歌の生れけり
山荘のテラス暫く炎天下
避暑の荘富士山を皆持つてゐる
夏蝶の高く上りぬ大仏
白波の一線となる時涼し
見るうちに人ふえ夏の浜となる
かりそめに人入らしめず薔薇の門
裏門に立てば夏蔭人通る
雛芥子に秋風めきて日の当る
青きところ白きところや夏の海
鎌倉は海湾入し避暑の町