和歌と俳句

最上川

茂吉
あまづたふ 日は高きより 照らせども 最上川の浪 しづまりかねつ

茂吉
月讀の のぼる光の きはまりて 大きくもあるか ふゆ最上川

茂吉
あまぎらし 降りくる雪の おごそかさ そのなかにして 最上川のみづ

茂吉
最上川の 流れのうへに 浮かびゆけ 行方なきわれの こころの貧困

茂吉
最上川 ながれさやけみ 時のまも とどこほること なかりけるかも

茂吉
両岸は 白く雪つみ 最上川 中瀬のひびき ひくくなりつも

茂吉
最上川の ながれの上に 冬虹の たてるを見れば 春は来むかふ

茂吉
最上川 にごりみなぎる いきほひを まぼろしに見て 冬ごもりけり

茂吉
最上川 ながれの岸に 黒どりの 鴉は啼きて はや春は来む

茂吉
最上川 雪を浮ぶる きびしさを 来りて見たり きさらぎなれば

茂吉
うちわたし いまだも雪の 消えのこる 最上川べに ひるがへる

茂吉
水面は わが顔と触るる ばかりにて 最上川べの 雪解けむとす

茂吉
黒鶫 こゑも聞こえず なりゆきて 最上川のうへの 八月の雨

茂吉
水ひける 最上川べの 石垣に 韮の花さく 夏もをはりと

茂吉
最上川の 水嵩ましたる 彼岸の 高き平に 穂萱なみだつ

茂吉
朝日さす 最上川より 黄の靄の 立ちののぼりに われ没しけり

一つゆく橇に浪うつ最上川 普羅

茂吉
最上川 あふれむとする 壮大を 今後幾たび 吾は見らむか

茂吉
冬川の 最上の川に 赤き鯉 見えゆくときぞ こころ戀しき

梅雨の瀬の簗駈けのぼる最上川 秋櫻子

時雨ぐせ砂丘の赤き最上川 不死男

最上川につつこみ青菜振り洗ふ 楸邨

夏山の襟を正して最上川 虚子

白糸の滝も眺めや最上川 虚子

最上川秋風簗に吹きつどふ 秋櫻子

最上川暮れゆく落穂拾ひ立つ 秋櫻子

高きより雪崩れて最上川塞ぐ 誓子

青くるみ最上川幅拡げつつ 汀女

最上川田植を率ゐ田を率ゐ 静塔

吹降りにさからふ飛燕最上川 青畝

さかのぼる卯浪を見よや最上川 青畝

八朔や最上は水位満ち足りて 静塔

最上川か行きかく来て土用浪 青畝