和歌と俳句

齋藤茂吉

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新年

白雪の 降りつもりたる この町に 年めぐり来て 定まらむとす

新しき 年のはじめと いふ聲す 稚きもの等 雪につどひて

にひ米を 搗きたる餅 あひともに 食せとしいへば 力とぞなる

雪のうへに 立てる朝市 去年より 豊かになりて われ釘を買ふ

朝日さす 最上川より 黄の靄の 立ちののぼりに われ没しけり

こもごもに 嘆かむとする ためならず ここの細路に たたずむわれは

上ノ山の 山べの泉 夏のころ むすびたりしが わかれか行かむ

手力を ふるはむとすと 息巻ける 少年を見れば うれしきものか

一年の はじまりの日と みづからも 心しづけし 北窓に目ばりして

充ち足らふ 食にあらねど 食ひてのち 心を据ゑむ 年あらたにて

夕映えの なかにうかべる 富士山を 外國人の ごとく立ち見し

山の 墓地にやぶ蚊の 居ずなりしことを聞きければ しばし驚く

地下道を のぼれば銀座の 四丁目 ことわりたえて 目をみはりけり

欠伸すれば 傍にゐる 孫眞似す 欠伸といふは 善なりや悪か

アザミのために

つつましく 君に従ふ 年を 傍観しゆかむ われとおもはず

すでにして 三寸の雪 ふりたりと 大石田より 言をつたふる

さはしたる 柿のとどけば ひとつ食ひにけり 東田川の をとめおもひて

いきいきと したる年に たちまじる 君のかたはらに 吾がかへり来ぬ

もみぢばの すがれむとする 君の庭 ひとめ見しさへ うれしとおもふ