和歌と俳句

齋藤茂吉

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可愛山稜

あまつ日高彦火瓊瓊杵尊を葬めまつりし山の可愛御陵

天孫のみささぎのうへに年ふれる樟の太樹のかげにわが立つ

空とほく秋のしづまるひるつ方みささぎにのぼり三たり額ふす

いつしかも神のみささぎ吾等をりて現しき山に涙しながる

雲はやく西にうごきてやまぬとき天つ日さしぬ可愛のみささぎ

高屋山上陵

ひむがしの空にあきらけき高千穂の峰に直向ふみささぎそこれ

澄みはてし吾のこころを額づくや高屋の山のうへの御陵

神の代のとほき明りの差すごとき安けきにゐて啼く鳥のこゑ

吹く風の松の木立にこもりたるそのひと時をかしこむ吾は

あたたかく陽のさす斜面には蜂ごもりして遠つ世なすも

みささぎを守るこの翁わがために審に云ひて国を見おろす

うつつなるこの御陵に神の代を直におもひて去りあへなくに

しげりたる木むらのなかのたゆけきに鵯鳥来鳴く神のみささぎ

吾平山上陵

大隅のくにの南の御陵に雨に濡れつつ川の瀬わたる

しぐれ降る峡に足とどめ山がはの音断えまなき瀬々を見守りぬ

とほく来てわれの渡れる川の上の巌洞のなかに神こもります

この深きはざまを籠めし御陵に日もすがらなる雨降りみだる

石川のきよき流れの極まりに巌おほきくとはのしづまり

みささぎゆ出でてながるる清川や白き鳥ゐていさごを歩む

そのかみに峡にみなぎりし奔浪を心におもひ吾もひれふす

日向の吾平の山の上の御陵にわがころも濡れしことも伝へむ

鹿児島神宮・石体神社

鹿児島の方ふりさくる神宮にこの身潔まり旅ゆかむとす

すめみまの神のみまへにひれふして豊酒を飲みぬあはれ甘酒を

鹿児島の大御社の杉木立その下かげに一とき立ちぬ

裏山の径をのぼりて木犀の香を嗅ぐころぞ秋はれわたる

梛の木のふと木にとまり鳴く禽を顧みしつつ山に入るなり

罪けがれここに祓ひて秋ふかき十日の旅の行方たのしも

石体の社へくだる山道をわが知る人もくだりけむむかも

高千穂の宮に軍の議遂げたまひたることぞかしこき

石体の神のやしろに小石つむこの縁さへ愛しかりけれ

高千穂の宮居をしぬびたてまつり二たび見さくる山ぞ全けき