齋藤茂吉

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大石田移居

蔵王より 離りてくれば 平らけき 國の眞中に 雪の降る見ゆ

朝な夕な この山見しが あまのはら 蔵王の見えぬ 處にぞ来し

かりそめの 事と思ふな ふかぶかと 雪ながらふる 小國に著けば

最上川の 支流の音は ひびきつつ 心は寒し 冬のゆふぐれ

さすたけの 君がなさけに あはれあはれ 腹みちにけり 吾は現身

虹色の靄

雪ふりて 白き山より いづる日の 光に今朝は 照らされてゐぬ

きさらぎの 日いづるときに 紅色の 靄こそうごけ 最上川より

川もやは 黄にかがやきぬ 朝日子の のぼるがままに わが立ち見れば

最上川の 川上の方に たちわたる 狭霧のうづも 常ならなくに

最上川の 川の面より たちのぼる うすくれなゐの さ霧のうづは

春たつと おもほゆるかも 西日さす 最上川の水 かになりて

今しがた 空をかぎれる 甑嶽の 山のつづきは 光をうけぬ

ひたぶるに 雪かも解くる 眞向ひの 山のいただき けむりをあげて

しづかなる 空にもあるか 春雲の たなびく極み 鳥海が見ゆ

一つらの 山並白く おごそかに ひだを保ちて 今ぞかがやく

最上川の 岸の朝雪 わが踏めば ひくきあまつ日 かうべを照らす

たとふれば 一瞬の 朝日子は うすくれなゐに 雪を染めたる

ふかぶかと 降りつもりたる 雪原に 杉木立あるは 寂しきものぞ

あまのはら 晴れとほりたる 一日こそ 山脈の雪 見るべかりけれ

きさらぎの ひるの光に 照らされて 雪の消えをる 川原を歩む

ひむがしの 空をかぎりて 雪てれる 峯の七つを かぞへつつ居り

われひとり 歩きてくれば 雪しろき デルタのうへに 月照りにけり

山峡を 好みてわれは のぼり来ぬ 雪の氷柱の うつくしくして

和歌と俳句